世界かき学会

会長からのメッセージ

 

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世界かき学会会長
森 勝義

2005年創立のWOSはまだ若い学会であるから、発展期に向かって多種多様な意見が出てくるのは歓迎すべきことである。最近印象深かったのは、設立当初からの会員の1人から「WOSは通常の学会らしくない」と批判されたことである。もともと学会とはこういうものだという先入観を持っている人から見れば、この12年の間に段々と異質な学会に変貌したと感じるようになり、このままでは将来展望が開けそうにないと言うことらしい。

 設立の趣旨に賛同する人であれば、国籍、職業、資格などを問わず会員になることができるから、WOSは一見雑多な人々が集まるクラブとか同好会のような団体に思われることがあるかもしれない。しかし、WOSには各々の専門分野で優れた研究業績をあげている研究者も数多い。そのような人々はWOS以外にもいくつかの歴史のある伝統的な学会に属し、その中で指導的役割を果たしている。それでもなおWOSに身を置き、IOSに積極的に参加しようとする理由は何か?

 プロの人々のみを会員とする伝統的な学術団体では、一定の先入観を持って研究・関心の対象・素材を扱うから、それらが本来備えているみずみずしい魅力を見逃してしまう場合がある。例えば、研究テーマをめぐって会員の1人が自分の体験上不思議に感じて強い科学的興味を示す事象を提案したとする。このような特異な体験を持たなかった他の大多数の会員は、彼の提案にまともに耳を傾けようとしないで、そのようなことは常識として既に定着しているとか、あまりにも幼稚すぎることとして一笑に付してしまうことがある。これは科学の原点を見失ってしまった行為である。私達は海の現場にこそ科学の芽があることを忘れてはならない。1,000人の中のたった1人がたまたま体験した事象の中に科学的大発見のきっかけが隠れているかもしれないのだ。それを残りの999人が一笑に付してしまうことは科学者集団としては失格である。

 幸いなことにWOSでは、プロがこれまでに感性的に体験できていなかった貴重な情報(科学の芽)をIOSなどの場に居ながらにして入手することができる。これは、WOS設立前から各自が所属していたプロ集団としてのいわゆる従来型の“学会”からは自ら求めても得られないWOS会員の特権であろう。

 WOSのビジョン・ミッションは会員に“holistic appreciation”(全体論的な見方)の重要性を訴えているが、そのきっかけについて若干思い返してみたい。WOS創設時の私は66歳で、東北大学を定年退職後2年目であった。本格的にカキの研究に打ち込んでからすでに40年以上が経過していた。幸いにも第2の人生も財団法人かき研究所で好きなカキと共に歩むことになった。このような節目に当たって、ふと自分の研究業績を方法論的に振り返ったことがある。そして納得したことの1つは、いずれの研究課題においても、方法論的に低次な、単に体験の記載をする段階から、意識的に選択・分類して演繹的に解析する、より高次の段階へ進み、さらに帰納的に本質を求める段階へ向かおうとして、挫折したり、部分的に自己満足したりすることの繰り返しだったという事実である。つまり、演繹と帰納の作業を自分なりに楽しんできたわけであるが、その過程で要素論あるいは還元主義とは異なる全体論的な物の見方で自然を観察する力が多少なりとも身に付いたように思われる。私の研究は、その当初においては自然を要素に細分化し続けようとしたけれども、その作業が完遂しないうちに、いつの間にか要素と要素の関連性の方に興味が向かってしまっていた傾向が強い。これは海産二枚貝であるカキを通して自然の摂理にできるだけ多く触れたいと願う一方で、常に水産業への貢献を考える者の宿命的な所為だったのかもしれない。「学問栄えて産業滅ぶ」ことがあってはならないとの思いが私には染み付いていたのだろう。

 現在、我々を取り巻く社会は、「地球規模の温暖化」、「生物多様性の喪失」、「人口増加と食料問題」、「急速な高齢化」などに直面している。これらはいずれもグローバルな問題としてグローバルな視点から解決されるべきである。つまり、急速に変化している状況にholisticな思考を持って対応できる人材の育成が必要である。自分の専門領域のことしか見えない、関心を示さない人材ではこれらの幅広い総合的な問題に立ち向かうことはできないのである。やはり、大学などでの教育の在り方がこれから一層問われるであろう。そこにWOS活動が何らかの貢献ができればすばらしいと私は強く思っている。

 なお、創設者である私が“holistic appreciation”の重要性を訴えているからと言って、WOS会員がすべてそれに染まる必要はなく、多様な思いで多様に生きる人々にカキを愛してもらえれば良いと私は考えている。重要なことは、WOSが単に生物としてのカキを愛する人々の団体にとどまらず、様々な立場の考えの人々がカキを通して世界の食料問題や環境問題などの解決に役立つ議論を自由にできる共通の場としてあり続けることである。  ( 森勝義著 「世界かき学会の誕生と歩み―海を生かし、海に生きる―」 ) 

(2019年10月)

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