世界かき学会

会長からのメッセージ

 他の天体と比べ、地球の最大の特徴は、再生産可能な生命を誕生させ、育み、進化させ、さらに多様化させることができる環境条件を備えていることである。かつて地球上に生息した生物種の数は約5億と推定されるから、約1,500万とみなされる現存種の数は、これまで地球上に出現した種の総数の3%程度にすぎないことになる。このことは、ほとんどの種は絶滅してしまい、現存種は長い進化の歴史の中で生き残ることができた数少ない勝利者であることを意味する。従って、現在、我々が地球上で出会う生物達は貴重な地球財産であり、大切に保護すべき対象である。一方、我々人類が生存し続けるためには、進化上の起源を一にした、これらの生物達を食料として利用せざるを得ないことも自然の摂理である。

 地球が健全であれば、あらゆる現存生物の基本的性質である生殖・進化・適応等を依然として保障するはずであった。ところが、わずか数百万年前に出現したばかりの人類が、特に産業革命以降に地球型生命の枠を超えてしまい、地球規模で食用生物を含む自然をみさかいもなく収奪し、破壊してきた。このような状況がなお続けば、やがて地球規模で生態系は不安定となり、生物の基本的性質は保障されず、人類は自ら自分の首を絞める結果となる。それを阻止するためには、人類が日常的に接触し、深く観察できる食用生物を通して「地球からの警告」を読み取り、適切に対応する知恵を身につけるべきである。

 食用生物を選定するには、生物進化の傾向を考慮することが大切である。この傾向は向上と分岐に大別されるが、特に向上にかかわる一般的傾向の一つに「自由化」がある。これは、進化につれて生物は環境の影響に左右される度合を減少させ、逆に環境を制御する力を増加させるようになるというものである。すなわち、進化のレベルの高い生物は、それだけ環境の変化に左右される度合が小さいので、環境の悪化を我々人類に知らせる機会が少ない。換言すれば、系統発生的に近い関係にある生物のみを食料として利用していると、人類は地球環境の悪化に気付かないことが多い。つまり、進化のレベルが低い生物の方が環境変化に敏感であり、「地球からの警告」を人類に伝えやすいので、食用生物として適していると言える。しかし、伝統的な食文化に根差した嗜好性という壁があるから、生物経済を取り入れた新しい食文化の構築について啓蒙することも必要である。

 地球環境の小さな異変にも敏感に反応する生物を食用種の中から選び出して国際指標生物とし、それらが示す反応を先端的な生物科学的手法を駆使して定期的に観測し続けることが人類にとって緊要な課題となる。国際指標生物の候補になり得る条件として、系統発生的に人類とできるだけ遠い関係にあることに加え、世界各地で古くから人類の重要な蛋白源として利用されてきたこと、そして現在もコスモポリタン的な産業種になっていることなどが当然考慮されるべきである。このような諸条件に適合する生物の1つにマガキCrassostrea gigas がある。また、国際指標生物の生物特性を何らかの指標によって表すことが必要であるが、その指標として最もふさわしいものの1つは、環境適応能力を適確に示し得る生体防御機能である。

 上記の定期観測は、国際的に権威のあるプロジェクトを立ち上げて実施することが効果的である。そして、その検討の結果に基づき、各国が協調して地球を救うための戦略を練り、それを着実に実行するという国際的な環境保全活動を提案したい。

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